SPECIAL TALK

価値総合研究所の進化への挑戦 ~コンサルティング+アカデミズム~

価値総合研究所(以下、価値総研)の歴史は、旧日本長期信用銀行内に経営研究所が設置されたことに始まる。1969年のことだった。その後、価値総研として自立経営に移行。大きな転換点になったのが、2013年、日本政策投資銀行(以下、DBJ)の資本参加を得て、同グループの一員となったことである。DBJは多彩で高度な金融手法を駆使し、日本の経済社会が抱える様々な課題解決に向けて、特色あるサービスを提供している金融機関。そしてここへきて、価値総研はDBJグループのシンクタンクとして、ガバナンス体制をはじめとした大胆な改革に着手。いわば、価値総研の進化に向けた挑戦と言える取り組みである。今回、価値総研・代表取締役社長の桐山毅、同・執行役員事業統括の山崎清、そしてDBJ・設備投資研究所エグゼクティブフェロー(副所長)である竹ケ原啓介氏の3人に、価値総研の改革について、そして独自の強み、将来に向けた戦略等、忌憚なく語り合ってもらった。

  • 桐山 毅

    株式会社価値総合研究所
    代表取締役社長
    桐山 毅

  • 竹ケ原 啓介

    株式会社日本政策投資銀行
    設備投資研究所エグゼクティブフェロー
    副所長 兼 金融経済研究センター長
    竹ケ原 啓介

  • 山崎 清

    株式会社価値総合研究所
    執行役員事業統括
    山崎 清

個人の能力・裁量に依存しない、ゼロリスク化のための業務プロセス改革

山崎
当社は10年前にDBJグループに入り、比較的、自主的な運用のもとで経営を行ってきましたが、DBJグループのシンクタンクとしてより一層の体制強化を図るべく、2年前から組織形態、ガバナンス体制、業務執行方法、業務内容・中核分野等の改革を推進してきました。改革の主な論点は、大きく3つあります。それは、「ゼロリスク化のためのガバナンス体制」「本業での生産性の向上」「人材マネジメント」の3点です。通常、このような大きな改革は5~6年かけて行うものだと思いますが、当社は急ピッチで実施してきました。
竹ケ原
最初に掲げた「ゼロリスク化のためのガバナンス体制」の取り組みについて伺いますが、シンクタンクが抱えるリスクとはどのようなものなのでしょうか。どのような問題意識があったのでしょうか。
山崎
当社はかつて、職員一人ひとりが株主であり、個人が自由にビジネスを展開してきました。その結果、組織としてのマネジメントができず、内部統制は脆弱なものとなっていたのです。個人が自分の裁量だけで営業や契約を進めてしまうと、そこで不祥事や事故等が発生した場合、組織として対応することが困難になりかねません。組織と個のバランスの危うさは大きなリスクなのです。
竹ケ原
個で勝負する世界である一方、それが過剰になるとリスクが生まれるわけですね。リソースの最適配分が必要になるのでしょうが、個のモチベーションにも関わってきますから、その辺りにガバナンスの難しさがありますね。
桐山
改革というのは外科手術と思います。体はダメージを受けますし、個人の創造性の発揮を遮ってしまう懸念もあります。しかしゼロリスク化のためには、プロセスとリソースをきちんと管理しなければなりません。それが、業務プロセスの再構築でありミドルバック部門の設置でした。
山崎
ええ。これによって、これまでの個人の能力・裁量に依存していた営業や受注、施工等について組織で判断し、それらのリスクを組織でとる業務プロセスに転換しました。
竹ケ原
ミドルバック部門設置は業務プロセスの再構築に必要不可欠だったわけですね。
桐山
こんなに忙しいのに新しい部門をつくってどうするのか、という指摘もありましたが、事業部部門であるフロントと総務の間に置いたミドルバック部門が、新しい業務プロセスを円滑に進める推進役となっています。各プロセスにおけるマニュアルを作成し、社内全体に周知するとともに、全体が稼働するように動いてもらっています。率直な気持ちで言えば、ゼロリスク化の実現とともに、みなさんに気持ち良く働いてもらいたい。そのための業務プロセスの改革と言えます。

イノベーションによって差別化を図り、高付加価値化、生産性向上を実現

山崎
当社の二つ目の改革の取り組みが「本業での生産性の向上」です。生産性向上は、当社だけでなく我が国全体のテーマ。我が国は1990年代から先進国の中で、1人当たりGDPが上昇しておらず、賃金も上がっていない国です。「失われた30年」とも指摘されています。
桐山
当社は、得意とする知識や技術を用いてプロダクトの差別化を図り、高付加価値を実現することで生産性を向上させてきました。工学と経済の融合による大規模な数値シミュレーション技術、空間情報の分析技術、不動産とESGの融合などによって、社会課題のソリューションを提案しています。このように業界の既存業務の成果にとらわれずに、新たなソリューションを提供できるのも当社の強みの一つですね。そこには常にイノベーションがあったと思います。
山崎
ええ、それらに加えて生産性を向上させるための取り組みの一つが、ストック型ビジネスの展開です。これは今まで蓄積されてきたプロダクトを複数のビジネスで活用する取り組みです。こうした定性的な技術のストックも当社の強み。もう一つの取り組みが「標準化」ビジネスの展開です。これは業務を「標準化」して様々な地域で展開するというもの。規模の経済(レバレッジ)の発揮によって、生産性向上につなげていきたいと考えています。
竹ケ原
取り組みを聞いて思うのですが、価値総研では一人の研究員が複数の分野・領域をカバーしていることになりますね。文字通りの少数精鋭。
桐山
少ない人数で「総合研究所」と掲げているのも、当社の特徴の一つですね。

会社が進むベクトルと社員のキャリア形成が一致する会社へ

山崎
3つ目の「人材マネジメント」は重要な視点であり、個人の自主的な努力や頑張りに依存するだけでなく、組織として人材をマネジメントするように取り組んできました。一つは、先ほど桐山社長が指摘したリソース管理。年間のプロジェクトの稼働時間を決めて、それに対する予実管理で「見える化」することで、自然に個人の行動が改善されています。
桐山
社内コミュニケーションの活性化にも力を注いできました。かつてはパーテーションでデスクが区切られ、個人の研究室みたいだった。そこで社内のレイアウトを変更し、打ち合わせスペースを拡充することで、みんなで話し合う環境を整えました。また、社員が全社員に向けて行うプレゼンの機会や外部研修の導入などで、個人の力が向上することを目指しています。
竹ケ原
ここまで改革の内容を伺ってきましたが、それ自体が価値総研の差別化要素を語っていると感じました。優れたアウトプットを生み出すことに的を絞った価値総研の取り組みは、同業他社との明確な差別化になると思います。
桐山
一方で重要なことは、会社が進むベクトルと社員のキャリア形成が一致していること。それがいい会社の条件の一つだと思います。私はDBJの出身なのですが、DBJには「目標マネジメント」という、将来なりたい自分の姿を描いて、それを目標にする取り組みがありますよね。
竹ケ原
ええ、どうしても単年度で取り組む業務に集中してしまい、将来のことは見えていない、考える余裕がない事態に陥りがちです。「目標マネジメント」は目指す姿を明確にすることで、モチベーションも上がる。キャリア形成に有効だと思います。
山崎
今のお二人の話を聞いて、私自身実感していることがあります。中長期的なビジョンを持っている人の多くは、成績が良い傾向にあります。そうでない人は、あまり成績が芳しくない。やはり、ここまでできるようになりたい、自分はこうなりたいという想い・目標を持つことは重要だと思いますね。
竹ケ原
ガバナンス体制の再構築をはじめとする様々な取り組みで強固となった組織を舞台にしてキャリアを設計できる。それが価値総研で働くことの魅力と言えますね。その結果として、価値総研の皆さんは、単なる受託ではなく、発注者側に深く食い込んでニーズを汲み取ったアウトプットを出していますね。
山崎
それが当社の強みです。中央官庁と一緒に汗をかいて考えるシンクタンクが価値総研。「コンサル+アカデミズム」の両輪で考え抜くシンクタンクです。実際、考えるのが好きな人が多いですし、考え議論する中で最良のアウトプットを目指しています。

人を育てオリジナリティを発揮し、顧客に徹底して寄り添い、考える。

桐山
私は、社員がやりがいを持ち、モチベーションを高く維持し、着実に成長の実感を得ることができる会社、そしてワークライフバランスがとれた会社をつくっていきたい。それが力の源泉だと思っています。
山崎
今、社長が社員の成長の重要性を指摘しましたが、私の経験から言うと、マネージャーのレベルアップがとても重要です。若手はモチベーションもあるしポテンシャルもある。しかし、かつて部長になると成長が止まる人がいました。マネージャーもプレーヤーとして成長する意識が必要です。マネージャーが成長すると、下についている者も伸びていく傾向が強いですね。
竹ケ原
以前、新聞記者が昇格を忌避して、「デスクになるために記者になったのではない」と話しているのを聞いたことがあります。つまり管理職でなくプレーヤーであり続けたいと。価値総研は、ミドルバックをしっかり持ったことで、フロントのマネージャーもプレーヤーとして活躍できる体制が整ったわけですね。
山崎
組織としてのイノベーションだと思います。ミドルバックを設置したことで、マネージャーを含めたフロントラインが強くなると考えています。
桐山
それは次の部長などの世代が、将来執行役員として活躍できるかということにもつながってきますね。
山崎
人材育成ということだと思いますが、標準的なスキルは外部研修で習得が可能です。ただ、シンクタンクの知識・技術は一子相伝の職人芸的な部分があり、この無形資産を継承していく必要があります。時間をかけてバランスよく継承していきたいですね。継承だけでなく、それを改良し進化させていく人材を育成したいですね。
竹ケ原
人材に対する考え方をしっかり持っているからこそ、無形資産の継承という難しいタスクを安定的に継続することが期待できるのだと思います。加えて、与えた武器は常に改良せよというメッセージも込められている。そこにオリジナリティも生まれてくるわけですね。
桐山
それも価値総研の強みだと思っています。
竹ケ原
価値総研は徹底してクライアントに寄り添い、考える。国内外のシンクタンクの中でも、稀有の存在だと思います。

時代を先取りしてきた価値総研。信頼を武器に、重要な政策分野の「頭」となる。

桐山
当社はDBJの子会社になるわけですが、一般に子会社は親会社の手足、下請けと見られる傾向があると思います。しかし私たちは手足でなく、「頭」の役割を果たせるという自負がありますし、専門性を駆使して自律的に顧客の期待に応えています。たとえば、これまで国家の方向性は専ら中央官庁の官僚によって決められていましたが、社会経済の多様化や変化のスピードの速さに対して、限られた中央官庁の人的資源で中長期的に今迄のやり方が継続するとは思えません。そこで当社は中央官庁のパートナーとして、政策立案をはじめ官僚が果たしてきた役割の一翼を自分たちも共に担っていけるものと考えています。
竹ケ原
すでにそういった流れは生まれつつあると思います。各分野でそれぞれ成果が生まれていますが、特に環境・経済の分野の展開に注目しています。私はかつて「環境格付融資制度」の創設に関わり、それ以来、共に制度を設計した環境省とコミュニケーションを取る機会が多いのですが、折に触れて、価値総研への厚い信頼を感じます。。私が直接見聞きしていないだけで、他の省庁も同様なのでしょう。
桐山
私が価値総研に来たのが2年前。どういう形、経緯で信頼を得るまでになったのですか。
山崎
シンクタンク業界はかつて官尊民卑と言われていました。官でつくった統計や分析・予測手法を民が使うという習慣・風潮がありました。そうした中で、私たちが構築した分析・予測手法や膨大なデータを承認してもらい、我々がつくったものを展開してもらう、そのような取り組みを進めたのです。一つの分岐点でした。
竹ケ原
抜きがたいカルチャーをひっくり返したわけですね。
山崎
ええ。海外の政府間会議などに出席すると、シンクタンクのスタッフが喋っていることが多い。日本もそうならなければと思いましたね。省庁からも年々受注が増えています。一つひとつの信頼の積み重ねで業務が拡大しています。
竹ケ原
中央省庁も優れた外部リソースと協働することのメリットを理解しているのだと思います。価値総研の優れたアウトプットを高く評価している証ですね。
桐山
ある意味で価値総研は時代を先取りしてきたと思います。中央官庁には未だ省庁間の垣根と言いますか、密な連携がとりづらい面もあるのではないかと思われますが、当社はそれにとらわれず、たとえばDX×不動産、環境×DXなど先駆的な取り組みをしてきました。顧客の変化を先取りして取り組む。夢があると思いますね。今後の当社については、先ず親会社であるDBJとの連携を一層強めていきたいと考えています。DBJは民間とのリレーションがあります。DBJのファイナンス機能に、当社が調査・コンサル会社として付加価値サービスをプラスすれば、DBJグループとしてレバレッジをかけられる。グループ会社は下働きのイメージが強いですが、オリジナルのコンテンツを有し、親会社に自分たちのプロダクトを「売ってよ」と言えるのが価値総研です。
山崎
DBJのネットワークで民間につながり、それが官公庁につながっていくという流れをつくっていきたいですね。
竹ケ原
社長が仰った「頭」になることの実践であり、具現化ですね。
桐山
ええ、DBJのパートナーとして成長していきたいと考えています。そして、民間ビジネスの視点に加え、パブリックマインドを持って取り組むことが、DBJグループのシンクタンクとして重要なことだと思っています。